脱サラ農家を訪問しました

 

 堺市に脱サラして農家に転進した方がいると聞いたので、12月下旬農場へ訪ねた。その方はYさんと言い、生まれは昭和21年。広告会社に長年勤めていたが長引く不況と合理化のために早期退職をした。

 早期退職をしたのは「農業だったら何とかやっていけるんとちゃうやろか」という気があったからだと言う。以来5~6年経ち目途がつきかけている。

 だが、いざ始めようとすると、非農家が農業を始めるには農業委員会の諮問にパスすることが必要であるとか、貸してもらえる農地がなかなか見つからないとか(現在は約3反の農地を借りている)、水利の問題とか、近所の農家の人たちとの交わり方、その他農家であれば誰でも知っていることでも、いきなり農業を始めようとする者には分からないことが多く苦労の連続であった。

 これらのことを、勉強する(何から勉強すれば良いのかも分からなかった)、人に教えてもらう(農業委員会の存在すらも知らなかった)、現地を見に行く等、一つひとつ時間を掛けて解決してきた。

そして耕作までに更に必要な資材類、即ち各種農具、ビニールハウスのフィルム・パイプ、耕運機、運搬や収穫に使う篭、ホース、一輪車、軽トラ等、かなりの出費である。まだあるこれらを収納する作業小屋。しかし今は小型のビニールハウスで代用していた。

 実際に耕作を始めても、植える種類と植える時期が分からなかった。この辺りは消費地が近いので、稲作ではなく葉っぱもの野菜を栽培しスーパーにおろすのが良いとのことであった。だが売り物になる収穫物がなかなか取れない、連作などの床嫌いの問題もある。これらの解決にも近くの農家の人に教えてもらうなどしてだんだん経験を積んできた。植える種類にもよるが、うまく組み合わせれば一年に7回もの収穫が得られるとのことであった。そのためには次の作物は他の苗床で苗を育てておき、収穫が済めばすばやくその苗を植えることも知った。

今では、真面目さ、実績、地域の人たちとの交流等がようやく実を結び、地域の役員や、審査委員もさせてもらうまでになった。販売先も幾つか見つかり苦労が実りつつあるこの頃の様であった。

これからは、販路開拓はもちろんのことであるが、色々な夢を持っていることを教えていただいた。それはこれまでの農家にはあまり見かけられなかったと思うが、いろんな方面の方との交流を持つ、技術の改良・工夫に務める、ITなどを駆使した情報の発信と入手、販路開拓、など社会情勢、経済情勢、政治情勢等幅広い知識を持った農民になること。また農業が持っている環境の保全や癒し効果、引きこもりの人にもやらせたい、土いじりをしたい、等就農に関心を持つ若者が多く尋ねてくるので、よく話して一人でも就農にこぎつけてほしいと思っている。

 しかし現在、農外からの就農者が必要とする資材は新品である必要はなく中古であっても良いと思うがその流通がない。あるいは耕耘機等の大型機械は共同購入でもいいと思うがその様な制度がない。農外者が就農するにはそのためのソフトシステムが出来ていないので、行政、農協、メーカーが協力して農外者が一人でも多く就農できるようにワンストップ就農支援機関のようなものが必要と考えておられた。

 最後に、「インタビュアーの方から何か助言とか忠告のようなものをいただけませんか」と言われた。そこで、これまでにご苦労なさってきたこと、色々な経験、自分の理想・抱負等をある程度権威ある学会誌とか協会誌のような本に投稿してご自分の考え方を広めてはと言ったところ、既にその様なことの実行を試みているとのことであった。口コミだけでなくセミナー、刷り物、ITを通じての情報発信が大切と思っているとのことでした。

冬の午後は暮れるのが早く、仕事の妨げにならぬよう約束の時間が来たのでお礼を言ってそこを辞した。私は農外者の就農はかなりハードルが高いと見たが、これからの農業を救うのは、農家の跡取りだけでなく、農外からの参入者の活躍にかかっている様に思われた。皆さん今一度日本の農業の将来を考えて見てはいかがでしょうか。

 次の作物への準備中の宇根
次の作物への準備中の宇根

    

 大きく育った収穫前のネギ

大きく育った収穫前のネギ

                 

コメント / トラックバック4件

  1. sisi より:

    丁寧な記述でよく理解できました。
    Yさんも満足のことと思います。

  2. k.keiko より:

    一緒に取材をさせていただき有難うございました。私は単語の羅列のノートを思い出しながらの文章なので
    ぜんぜん違う感じに仕上がりましたね。

  3. sib より:

    文章力をうかがわせる力作ですね。

  4. ニイハオ! より:

     「日本の農業が危ない。」と言われて久しいですが、農業の担い手は、親族の後継者だけでなく、このように新規に就業されるかたの力も非常に大きいことに、改めて気づきました。

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